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2009年07月22日

佐藤実さんからS&G来日公演のレポートが届きました!

サイモン&ガーファンクル日本ツアーは、7/18(土)北海道・札幌ドームで終わりましたが、『サイモン&ガーファンクル全曲解説』の著者、佐藤実さんからうれしいプレゼントが! 7/15(水)の日本武道館での追加公演を聴いてのレポートを書いてくださいました。どうぞお楽しみください。

[木村]


 佐藤実です。7月15日、武道館のコンサートに行ってきました。

 まず結論をいえば、満足感でいっぱいです。S&Gのおなじみの曲、そしてふたりのソロの曲を約2時間、まさに堪能しました。観衆は若者もまじってはいましたが、ほぼ中高年で埋めつくされ、ふたりを暖かく迎える拍手と声援が終始気持ちよく聞かれました。ポールもアートも現在67歳ですが、今年10月をすぎれば68歳になります。この日のステージでも、〈旧友〉で「70歳になるなんてひどく奇妙な気がする」と歌っていましたが、その箇所に、聴いているこちらも、なんだかぐっと胸をつかれるような気持ちになりました。なにしろこの曲が収録されたアルバム『ブックエンド』(1968年発表)の当時、ふたりは20代後半だったのです!

 声は、S&Gナンバーでは高音域でややフラットする感じもありましたが、全体としてはそれもあまり気にならず、年齢相応の落ち着いた貫禄あるヴォーカルといっていいでしょう。いっぽう、ふたりをサポートするバンドは、2003年からの「オールド・フレンズ・ツアー」とほぼ同じメンバーです。そのDVDの映像と同様、全員がときにたくましく、ときに繊細に演奏しています。マーク・ステュアートを筆頭に、複数の楽器を操るマルチな才能の持ち主が多いという印象もめだちました。

 コンサートはアンコールを含めて全26曲ほど。いちばんの盛り上がりを見せたのはやはり〈明日に架ける橋〉です。たんに有名曲で最大のヒット曲だからというよりも、キーボードとピアノのウォーレン・バーンハートのアレンジの力がものをいって、まさにこの日の武道館における1回かぎりの新鮮な演奏に、みな感銘を受けての万雷の喝采だったように思われました。1コーラスめ=アート、2コーラスめ=ポールというそれぞれのソロ・パートからスムーズな転調をへて、3コーラめ=デュオへという流れなど、私の感想は『全曲解説』に書いた内容そのままでした。バーンハートのピアノのタッチの滑らかさ、音色の美しさは、それはみごとなものでした。和音とスケール主体のネクテルとまったく異なる、新たな「ブリッジ」の誕生といっていいと思います。

 もうひとつの盛り上がりは、公演全体をしめくくったアンコール最後の曲〈いとしのセシリア〉です。かつては〈ボクサー〉や〈59番街橋の歌(フィーリング・グルーヴィー)〉がコンサートのフィナーレに使われていましたが、意外にも〈セシリア〉もそれらに負けないくらい、その大役にふさわしい曲だったのです。シンプルながら奥が深く、ポールならではの暖かみのある曲──そんな〈セシリア〉の圧倒的な素晴らしさを再認識させられたファンも多かったのではないでしょうか。

 おのおののソロ・コーナーでは、アートの〈ブライト・アイズ〉(1979年の映画『ウォーターシップダウンのうさぎたち』の挿入歌)が、いかにも彼らしいひたむきさがにじみでていて素晴らしいものでした。ポールのほうは〈ボーイ・イン・ザ・バブル〉と〈グレイスランド〉(いずれも1986年のアルバム『グレイスランド』に収録)が演奏され、私としてはもう感無量というしかありませんが、この2曲に反応する人は、(S&Gのコンサートなのですから、しかたないのかもしれませんが)少なかったように思います。日本にはS&Gファンはたくさんいても、ポールのファンは少ないのかもしれないという厳しい現実を思い知らされたような瞬間でした。たしかにS&Gの曲とポールのソロ後期の作品はまったく異なるので、しかたない面もあると思いますが、同じ人間がつくっているのですから、魅力にそう大差があるはずもないのです。ですから、将来、ポールのソロ後期の作品群も、すこしずつファンに浸透していくだろうと、私はいくぶん楽観的にみています。『全曲解説』執筆の大きな目標のひとつもそこにあったわけですから。

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 最後に今後のことですが、ポールはそういえば「S&Gの公演は今回で最後だろう」と述べたと聞いています。アートはちょくちょく来日公演をおこなっているのですが、ポールは1991年以来、皆無という状態です。S&Gの公演が終わったばかりで言うのもなんですが、私としては、S&G後の1980年代あたりからのポールの充実した作品のかずかずをファンにもっと広く知ってもらうためにも、今後なるべく早い時期にポールの来日ソロ公演が実現することを願ってやみません。

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