渡辺裕(著)『考える耳【再論】 音楽は社会を映す』春秋社

渡辺裕(著)『考える耳【再論】 音楽は社会を映す』春秋社

2007年に出た『考える耳 記憶の場、批評の眼』にひきつづき、毎日新聞に連載されていた「考える耳」という音楽時評をまとめたもの。

こういった「時評」の単行本化は、出版社の立場からすると、ともするとすぐにネタが古くなってしまって、出版を躊躇することもあるのですが、渡辺さんの書くものは、ネタは古びても「視点」が古びない。それも頑固一徹というのではなく、柔らかさ、好奇心の向かい方が一貫している、というのでしょうか。

また、最近の電子書籍ブームのなかで、とみに思うことですが、いちど新聞などに発表された細かい原稿を、本のかたちにまとめたときに、あらたに加わる価値がたしかにあります。渡辺さんのコラムは毎日新聞でずっと読んでいましたが、もういちどまとめて読んでみたい、と思いますもの。「本」というものの役割は、こういうところにもあるのかもしれません。

[木村]